「え、都の案内?」
とある日、アラタは仕事の道中で、あるろくろ首と吸血鬼の女怪異達から話しかけられていた。
「はい! さっきの道案内もすんごくわかりやすかったので!」
「もしかして、お忙しいですか?」
この女怪異達、都の外から旅行をしにきたようで、ここの事を全く知らないのだ。そのため、パンフレットを見ながらおどおどしている二人にアラタが声をかけたことから、今に至る。
「この後仕事があるんで……でも、簡単な区域紹介でいいなら、やりますけど」
「わっ、そうだったんですね! ごめんなさい……!」
「でも、時間がまだ大丈夫なら、是非!」
アラタの言葉に目を輝かせた二人は、自分達の持っていた地図を彼へと渡す。それを受け取ったアラタは指を差しながら紹介していく。
「まず、ここは大きく分けて四つの区域で分かれてる」
隠世の都は、壁に囲まれた円状の形をしており、異形頭の区域、妖怪の区域、幻想種の区域、中央区域に分かれている。
「行き来も自由だし、色んな種族が入り乱れてるのがこの都の特色だけど、種族によって必要なもんとか棲み方が違うから、それに特化した店とか家が区域ごとに集まってる感じですね。で、俺のオススメは……幻想種の区域で新しいおしゃれな雑貨屋さんが出来たのと、異形頭区域のレトロなカフェとか……妖怪区域だと、お香が流行りみたいですよ」
アラタはそれぞれの区域のオススメの場所を地図で指さしをしたり、彼女達はそれをテキパキとメモしていく。そうして、アラタは目線をある場所へと向ける。
「で、今俺達がいるのが中央区域……そして」
「はいはいはいはい! それは知ってる! この隠世の長が住む区域ですよね!」
そう、ここは都だ。だからこそ、この隠世を統べる存在、長やその関係者が棲む場所がこの広大な中央区域なのだ。周辺は三つの区域を移動する為の駅と街並みが広がっており、その真ん中に、長の城が聳え立っている。
隠世は基本的に木造建築であり、長の城も例外ではない。その城は多くの建物を積み重ねたりして出来ており、ここが都の中にあるもう一つの都と言える程の大きさを誇っている。
頂上の天守閣には、長の一派であるという証の、《椿の紋》が飾られている。
「そういえば、長やその関係者達は、皆顔を隠しているんですって」
「らしいわね。一度でいいからそのお姿を見てみたいものだわ! きっと、とても美しいんでしょうねぇ」
「……。はい、紹介は以上。これで、存分に楽しめるんじゃないかな」
アラタが彼女達から借りた地図を返すと、彼女達は二人揃って彼に頭を下げた。
「えぇ、ありがとうございました!」
「あの、長の城をバックに写真撮ってもらってもいいですか?」
「いいですよ」
アラタは二人の写真を最後に撮って、彼女達と別れた。彼は二人が見えなくなるまで手を振り続ける。
そして、再び背後に立つ城を見つめながら、自分の首飾りを出し、その首飾りに掘られた椿の紋と、城にある同じ絵柄の紋とを互いに見る。
「……親父、まだ話してくんねぇのかな。自分が、その関係者だってこと」