「はい、これでどうですか?」
アラタは、自分の掌程の大きさしかない小さな窓枠を新しく作り替えると、彼の隣に居た小人の男性が手を激しく叩いて、喜びを表現している。
「助かったよ、ありがとう。家事妖怪なんて初めて聞いたけれど、連絡して正解だった」
家事妖怪。それがアラタの種族名。しかし、家事妖怪なんてものは存在しない。人間である彼がこの世界で生きる為の、偽りの種族だ。
いくらこの世界で暮らすためとはいえ、嘘をついている事に関しては後ろ暗い感情のもやもやが彼の中にもあるようで「あはは、そりゃ良かったです」と、苦笑いを含ませて言う。
小人は自身の家の中へと入り、領収書を取って戻ってくる。
「おいくらですか?」
「これぐらいなら、千圓です」
小人はその値段に「安い!」と驚きながら、アラタの背中を机代わりにし、領収書に自身の名とその金額を書き、アラタに渡す。
「私は小人用のお金しか持っていませんので、これを銀行に持っていてご自身の使うお金に変えてくださいね」
アラタはそれを両手で受け取り、頭を下げた。
「まいどあり!」
◇◆◇
「ありがとうございました」
アラタは今回の収入の入った封筒を受け取り、銀行を後にした。
「お母さん、早く早く! いっ」
「おっと」
足元の違和感を見てみると、三つ目の子供がそれらを涙目にしながら額を撫でている。
「おいおい、走らずちゃんと前見て歩けよ」
「ごめん、お兄ちゃん」
「おっ、すぐに謝れるのは偉いな!」
その後に慌ててやってきた三つ目の母親に頭を下げられ、子供と手を振り合って別れた。
アラタは再び帰路へと歩みを進める。アラタの目的であった銀行や百貨店、飲食店などが設けられている中心都市は、多くの怪異が行き交っていた。
人間の世界で多くの伝承を残している妖怪の種族。身体は人型でありながら頭部のみが花瓶であったりコーヒーカップであったりと異形の物を持っている異形頭の種族。そして、人の感情によって生まれる存在の種族。
人間以外の存在が、この世界《陰世》で暮らしている。
「……。っ! はい、もしもし」
アラタは、自身のズボンのポケットに入っていたスマホを取り出し、電話に出る。
「はい、はい、はい! 助っ人っすね! 了解でーす!」
その世界の異端分子であるはずの人間であるアラタは。
「この家事妖怪アラタさんにお任せよ!」
それでも、笑顔で生きようとしている。